子供は言ってもわからないからと言うのは大きな間違いだ。子供はもちろん大人と違う思考過程があるので、その年齢的特徴を理解しなければならないが、うそをついたり、知らせなかったりすると後々悲嘆による症状が出てきたり、それが成長過程に影響を与えるので、立派な人間として大人と同じように死の過程や死そのものを伝えていかなければならない。

ジェンは34歳で逝った。私は夜勤の一日目。勤務を開始する30分前にジェンは亡くなった。申し送りうけた時は中国人の母親がベッドサイドにいて、夫がもう少ししたら来るからとそれだけだった。ジェンの面識はまったくない私。しかしカーデックスをみると2歳の娘と書かれているのに気がとまった。申し送り後、母親と話をしようとしたがまったく英語が話せない。夫が来るのをまった。いつものルーティンを済ませ、夫に2歳の娘はどうしているのか尋ねた。彼は“彼女は母親が病気だと言うことは知っている。でも小さすぎて”死“はわからないし、こんな母親の姿を見せるわけにはいかないから、今夜は連れてこない。”と言う。私は子供に死を伝えることはとても大切なことですよ、と説明を始めた。

本当のことを伝えることが大切。子供は自分なりの理解をして、自分のせいで母親がいなくなったとか、教えてもらえなかったと思ったりする。2歳児ならどんなことも繰り返し聞いたり、体験して学んでいく年齢だから、一度説明しても何度も繰り返し同じ質問を受けたり、説明をしなければならないかもしれない。これは理解できない証拠ではなく、理解しようとする自然な過程で、繰り返し同じことを説明することが大切だ。もちろんあなたにとってつらい事実を繰り返さなければならないので、簡単なことではないが、子供と一緒にこの悲嘆を歩むと思ってがんばってください。死のことも眠ったとか天国へ行ったとすり替えず本当の言葉で伝えてください。ある家族の例ですが、母親の死後子供が何晩も眠らなくなり、カウンセラーが聞いてみると“眠ったら死んじゃうの”と言ったそうですよ。子供って大人ほど知識がないから誤解を招きやすいんですよ。だからひとつひとつ正確に伝えることが大切ですよ。と伝えた。はじめはなんて冷たい看護師なんだと言うような顔をしていた夫の表情は変わり“わかりました。小さいからなんて思い込むのは間違いですね。ゆっくり娘と話し合います。良い情報をありがとう”と言ってくれた。ホスピスボランティアのプログラム(子供のグリーフケアや男性だけのグリーフグループプログラム)の紹介をした。そして私はブリ-ブメントのボランティアにフォローアップの依頼をした。

家族の死に面した子供がどういう風に死を表現するかのビデオを見たことがある。5歳にもならない子が正確に家族の反応やどういう風にその人が死んだか話せることにとても驚いた。ティーンの部門では、死の輪に入れてもらえなかったことでどれだけ疎外感を感じたり怒りを感じたか、同じような経験をした同年齢のグループだけに心を開く子供たち。とてもパワフルだった。こういう話題のワークショップに行くと、必ず数人は自分の子供のころの体験談を語る人がいる。どれだけつらかったか、本当のことが知りたかったか、何十年もたっても心の傷として残っていて涙ぐむ人がほとんどだ。だからホスピスでどれだけ子供のケアが大切かを伝えていきたいと私は思っている。