帰国早々、マネージャーから電話をもらい新しい仕事を始めた。ホスピスパリアティブコンサルテーションチームのCRN(Clinical Resource Nurse)の仕事。といってもピンチヒッターで今月一杯だ。最近マネージメントレベルでの長期の病欠が多く、夏季休暇とも重なってプログラムがうまく回っない地区が多いのだ。で、私が住んでいる地区もそのひとつ。

もちろん経験はない。しかしそこでホスピスのPCCをしていたのでチームメンバーを知っているし、チームからの信頼も大きいから、という理由だった。一度やってみたかった仕事だし、すぐOKを言った。

わくわくの一日目。チームのソーシャルワーカーのリズについて回りながらのオリエンテーション。ちょうど新患の紹介が入り、それについて学ぶ。ホスピスパリアティブコンサルテーションチームは緩和医師、ソーシャルワーカー、CRN、CNSの4人でできていて(といってもCNSはとっても忙しい方、CNSの仕事量はここでは少ない)、病院や在宅、施設で予後が6ヶ月以下となった人の、症状緩和のコンサルトをしたり、ホスピスやTPCUへのスクリーニングを行う。今日の新患さんは突然の左半身の脱力症状で倒れ、病院に運ばれたモアさん。検査の結果肺がんで脳転移が多数見つかった。ステロイドのおかげで意識症状は軽快したが、麻痺は残っている。入院前は軽度の老人介護施設にいたモアさん。麻痺のため自宅(軽度の老人介護施設)退院が不可能。娘はホスピス入院を望んでいる。

まず、カルテをじっくり読みメモをとる。特に他科への紹介結果や検査結果、医師のノートなどなど。処方薬の一覧。頓服薬をどれぐらい使用しているか。看護師のノート。排便状況などなど。そして受け持ち看護師やPCCとからも情報を得て、ベッドサイドへ行き、モアさんと会う。言葉に気をつける。「ホスピス」「緩和」と聞いただけで、勘違いをする人が多いからだ。ゆっくり誰が紹介したのか、どういう目的で来たのか伝える。そして症状について問診や診察をして、病状の理解や目標やケアのゴールが何なのか患者の声で聞く。家族を話し合いに呼んでよいか許可をもらう(個人情報の守秘義務。本人の許可なしに家族に病状や治療計画を話すことはできない)。そして家族の中で誰がTSDMなのかを確認して、連絡をする。モアさんは急ながんの診断で戸惑っているし、自宅退院できるかどうか不安だと言う。今は頭部の放射線治療を待っている状態で、これでもっと症状が回復したら、と話す。高齢にもかかわらずしっかりされている。

娘二人が来るのを待ち、もう一度病室へ。自己紹介から始まり、モアさんが自分の言葉で家族に自身の考えを伝えれるように配慮する。モアさんは化学療法は絶対したくないし、今も何度も血糖値を測られたり、インスリンを打たれたり、ほかの注射もたくさんあってそれが一番苦痛だと言う。しかし放射線療法は頭に当てるだけだからしたいと言う。話し合いはこれからどうしたいかだけでなく、今の治療の質問なども出てきた。答えることのできる範囲で私は答えたが、それ以外は主治医に聞くことを促した。リズは言う。誤解を招かないためにもプライマリーのケアチームの仕事を横取りしないことが大切。あくまでもコンサルテーションチームとしての位置づけを忘れないようにと。娘二人はホスピスについて質問をする。リズはモアに許可をもらってから丁寧にほかの施設との違いに重点を置いて話す。最後の場所だとか余命が3ヶ月以下の患者が対象など言わなかった。リズはモアは急な診断で不安も大きいし、今ホスピスを持ち出すタイミングではない、と感じたからと言う。モアは4人部屋にいた。それも非常時にオープンされる仮の病棟だ。ホスピスからも放射線治療に通うことはできる。もっとホスピスのことを謳ってもよいのではないかと感じたが、リズの補足で納得した。私たちの仕事は本当に必要な人をホスピスへ送ること。納得できる治療で余命がある人を高齢だから、帰るところがないからなどという理由でホスピスへつれていくことではない、と言う。それに訪問は一回ではない、何度も訪れて経過をみながら進めて行くのだとも。

話し合いが終わり、帰る前にリズはも一度モアに許可を求める。病室外で娘二人と話してよいか、と。娘たちはホスピスにつていもっと質問があった。リズははっきり話す。今の時点では放射線医師の診察を待っている状態で、予後につていの情報も出ていないことを伝えた。それでも娘二人は満足そうな顔でモアが病院に運ばれてから、特にがんの診断を受けてから不安でたまらなかったけれど、話を聞いてもらえたこと、これからのことを知っている人に出会えたことで安心できました、と言う。

この日したことはこの患者のケースだけ。新患は多いときで一日2人まで。それ以上はできない、と言う。それほど一人の患者に時間をかける。もちろん新患の紹介が多いときはある情報の中で優先順位を決めていかなければならない。ケースによってはソーシャルワーカーと訪れたり、緩和医師と行くが普通はこれを一人で行うと言われた。それから症状コントロールがうまくいっていないときは主治医に電話をして薬剤の変更や必要な検査を勧めるのもCRNの仕事だ。

大変そうだけど楽しそう!と初の訪問を終えて私はリズを笑わせた。だって新しい視点でプログラムに関わるという視野の広がる経験ができそうだから!と緩和医師のゾイはその声を聞いてとてもハッピーな顔をしていた。

 

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