ホスピス、緩和ケア看護覚書*カナダ編

カナダでホスピス看護師をしています。2009年9月からバンクバーの某大学院 でMaster of Science in Nursing を始めました。End of Life CareのCNSになれるようにがんばります。半学生、半看護師の生活です。そして3児の母親でもあり、カナダ人の夫とは11年たっても熱愛中でごじゃいます。ブログに登場する人物名はすべて仮名です。

医療費

福祉国家

カナダは医療と高校までの教育が無料なので、福祉国家と思っていた。税率も高く(収入にもよるが所得税は38%もつく)。生活補助を受けて生きている人もたくさん見受ける。定職にも着かず、ぶらぶらしている若者から壮年期の人たちを見かけることが多いので、”いたせりつくせりの国だから、働かなくても生きていける”と、努力しない人が多いのよ。そういう人に税金が使われて、間接的にお世話をしているみたいで正直いやだった。

昨今は医療費の増加、財政困難によりアメリカのように医療をプライベート化しようという話が頻繁に騒がれている。それに医療費削減の波は刻々と国民を襲っている。例えば訪問でジョクソウの包交に使用する物品は訪問看護師が持参していたが、今は2週間立つと患者が購入して準備しなければならない。もちろん全員が対象になるわけでなく、経済的理由があれば免除になるのだ。低所得者にとっては変わりはないがそれ以上の国民にとっては大きな違いだ。救急車の利用も自宅から施設(病院など)は以前より料金の請求があったが、それ以外は無料だった。ホスピスに入院している人が緩和目的で放射線療法を救急車を使って通っていた。しかしこれも患者へチャージさせるようになった。少しずつ静かに無料サービスがなくなってきている。

医療の有料化は医療費削減につながるのか? 有料化によって低所得者の医療へのアクセスが妨げられ、国民全体の健康指標が下がるのではないのか、という考えもある。医療というものを歴史的観念、公衆衛生の観念、社会哲学の観念、政治の観念から視察するとどうなのか、ということを大学院で学んでいる。文献から学ぶことは多い。統計学的にみても大変興味深い。

例えば、健康指標といっても平均寿命を使うこともあれば、新生児の生存率を使用することもある(他にもいろいろな指標がある)。発展途上国と先進国と同じ指標で比べても因果関係が浮き彫りにならないこともある。何を何の目的に比較しているのか注意しなければならないが、なるほどと感心するものがあるのでここに例としてあげてみたい。

例えば平均寿命の長さでは日本が一位だ。カナダはスエーデンの次で7位。巨大経済大国のアメリカは30位となる。しかし国民一人当たりの医療費の支出はアメリカがダントツの一位でカナダはカナダは5位、スエーデンは14位そして日本は20位だ(この結果は年度やどの機関が調査したかによっても多少の違いはある)。面白いことに費用と平均寿命は反対比例のようになる(先進国の間では)。アメリカの経済大国の名は誰もが知っている。しかし貧困層と高取得者の比率を比べるとこれまたアメリカが一番になる。福祉大国の北欧諸国は社会福祉費の高さで有名だ。そしてこれらの国は貧困の差が少なく健康指標も良い。雇用率、福利厚生、教育、犯罪率などで、アメリカ、カナダ、スエーデンと比べると、ゴールドメダルの多さはスエーデンがダントツだ。政治の傾向、社会福祉費の割合を比べると、カナダはお隣のアメリカの横に位置され、イギリスはカナダのお隣だ。とても驚いた。カナダは福祉国家の北欧からはとても離れた位置にいるのだ。

カナダの医療は無料だ。しかし病気になった時に援助してもらえる(生活に関して)額は低く、システムも手厚くない。国民の健康が基盤になっている国で長期的に健康がなくなると(病気になると)低所得者になってしまう図式が出てくる。日本のように生命保険に加入する人はとても少ない。”働けなくなった時”を真剣に考えている人はどれくらいいるのだろうか。マスメディアに踊らされず、国民すべてが真剣に考えなければならないことだと思う。

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移民とホスピス

カナダへの移民の形はいろいろある。そのひとつがスポンサーである。カナダの市民権を持っているものが、新しい移民者の保証人となって移民が行われるケースだ。結婚移民と言われるのがこれだ。スポンサーをするためには職業や財産などを審査される。そして移民後10年間その移民者の世話をすると契約を結ぶ。世話をするとはどういう意味だろう?

カナダは福祉国家である。所得が低かったり生活苦があると政府が面倒をみてくれる。社会保障が充実している。こういう保障を受けず私がこの移民者を10年間世話をするという意味だ。だからスポンサー移民は生活保護が必要な状況になっても他の市民のように援助を国から受けることができないのだ。

で、先日ホスピスへのプロセスをしていた患者さん。ホスピスフィロソフィーについて話していた時は、そんなすばらしいところへ行けるなんて、と喜んでいた。しかし費用のことになった時、急に顔色が悪くなった。カナダでは医療費は無料である。この医療費とは急性期病院での医療費のことを指す。慢性期となり長期療養型の施設は無料ではない。といっても政府がある程度負担してくれるので個人負担は一日3000円程度となる。住居があり食事とケアがついてこれぐらいは悪い値段ではない。1ヶ月で9万円強だ。ホスピスは長期療養型施設と位置づけられているので同じ額の個人負担が発生する。市民の中にはこの料金さえ払えない人もいる。そういう時は社会保護制度が働き、収入や財産によってそのお金さえも政府によって25から100%賄われる。このような個人負担がバリアとなりヘルスケアへのアクセスが阻まれることを避けるためだ。だから、ほとんどの市民が個人負担金を心配することはない。

しかしこの患者さんは英語を話さない移民、、、、。通訳を通して「移民して何年ですか?」と訪ねると「来年の1月で10年です、、、」と暗い一言。娘曰く「この人の保証人となった人は6年前に死にました。私も夫も働いていません。息子も(患者の孫)仕事中に怪我をして働けない体になりました。嫁が一人で6人を食べさせてくれているのです。生活はギリギリです。これ以上お金を出すことはできません、、、」と。あ~厳しい状況だ。私はチームのソーシャルワーカーを呼んだ。状況のアセスメントをして欲しいと。彼女曰く「やってみるけど難しそう、、、、」と。

一人がカナダへ来て次々と家族を呼び寄せる移民者は多い。しかし英語を話すこともできず、自国と同じような職業に就けない人、予想もしなかったような病気で保証人を失くす人なども多い。スポンサー移民でも健康チェックを受け持病がないことを検査される。移民による医療費の高支出を防ぐためだ。高齢者のスポンサーをすることの意味を深く考えて決心する人はいったいどれくらいいるのだろうか。それとも家族(親戚も含めて)が一緒に新しい国で暮らすことが何よりも大事なことなのだろうか。家族、親戚みんなで力を合わせて長期医療施設への入院を避ける移民者は多い。そして彼らは言う、「自国に残っていたら、こんな高度な医療は受けることができなかった。家計が苦しくてもこうして生きて行けることを考えると移民してきたことを後悔しない。」と。政治も安定していて高度な医療を受けることができる国から移民してきた者としてはなかなか理解できない言葉だ。

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医療費

最近日本の高額な化学療法とホスピス入院の話を2度も聞いたので、カナダの医療費の話。

カナダの医療費は無料だ。ちなみに教育も高校まで無料。その分とても高い税金を払っているわけで、収入によって課税率は変わるがBC州で私ぐらいの年収で収入税は40%近い。BC州の消費税は12%。もうひとつ税金が来月から加わるので7%プラスとなる。この増税に反対する市民団体は多いものの来月からの加税はこのまま続行と、、、。

というのもカナダも他の国と肩を並べての財政難。オリンピックやG8のセキュリティーに何億とお金を投資できるのに医療費と教育費はなしなし。おかげで病棟閉鎖、首切り、雇用フリーズ(空きポストがあっても空席のままにする)、教育も学校閉鎖、首切り、プログラムカットなどなど、ここ数年とても厳しい情勢にある。

医療も教育も届くべきところに届かなくなるといわれながらも今のところフリー。

がん治療もフリーだ。収入によって受けられる化学療法の選択が変わるということはまずない。しかしアメリカはすぐお隣。カナダでは認可されていない治療を求めて南へ下る人は少なくない。いわゆるお金持ちならばもっと治療の選択が増えるというわけだ(どれだけのアウトカムの差があるのかは知らないが)。医療費は無料だが自宅で服用する薬剤は個人負担だ。雇用を通して(もしくは個人的に)保険に加入していればおよそ80%は還元される。収入と比較して高額薬剤費となれば補助制度もある。もちろん高額医療にたいする減税制度もある。BC州にはホスピスパリアティブベネフィットプログラムがあって、予後が6ヶ月以下となるとこのプログラムに入れて、薬剤、医療機器のレンタル、在宅酸素などが100%カバーしてもらえる。在宅死を望む人には力強いプログラムだ。

病院は無料だが長期療養型施設は無料ではない。政府の施設であれば現在の値段は一日およそ3000円の個人負担がかかる。3000円 x 30日で月9万円。部屋、食事すべてをみてもらえて、この値段なら一人暮らしの生活より安くなる。支払いに困難がある場合、収入や財産を査定して25%から100%の補助が出る。ホスピスは長期療養型施設と分類されるので、同じ料金制度になっている。しかし、ホスピスは他の施設に比べて豪華になっている。地元のホスピスボランティア団体による献金からだ。個室、電話(長距離もOK)、テレビやオーディオ機器。最近はコンピューターアクセス。家族用ベッドの備え付けなど。病院や他の長期療養型施設の4人部屋に比べたら天と地の差だ。活動域が低下しても、トイレやお風呂にいけるように、シーリング(天井)リフトは全部屋に設置。リフトバスや電動のストレッチャーなどなど。病室以外の施設も充実している。病院や施設的な環境でなくできるだけ”家”のような環境で安らかに最後の時が過ごせるように、、、これが私たちの目標だ。

日本は医療制度も医療費制度も異なるので、ホスピスの運営も難しいだろう。しかし誰でも平等にアクセスできることはホスピス緩和のフィロソフィーのひとつだ。ベッドを増やすだけでは解決策にはならない。行政的に取り組んでもらいたいものだ。

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