ESASというツールが職場で導入されて数ヶ月。新しいといっても何年も前から存在していてた。最近職場に導入されたという意味で新しいツールなのだ。
フルネームはEdmonton Symptom Assessment Systemと言う名で、名前のとおりエドモントンで開発された。職場ではまた一枚ペーパーワークが増えたとぶーぶー文句が出たけれど、使ってみてびっくり。私は威力を感じている。
このESASで重要なことは患者自身が記入すること。医療者が患者をどう観察したかではない。それからスナップショットのように患者が"見える”ことに驚いた。
COPDがベースにあって最近肺がんを診断されたマーガレット。呼吸苦が主訴で病院へ入院。自宅退院が不可能ということで30日病院で過ごした後、ホスピスへやってきた。私はいつもどおり全身の観察と問診を終えて今まで使用していた初期アセスメント用紙に書き込んだ。で次にESASを使用。マーガレットは呼吸苦の他に食欲不振、倦怠感のマークが高かった。そしてそのことに関して彼女はかなり感情的。何もする気になれないし、食べられないのよ、体はとっても疲れているのに夜はぜんぜん眠れないし、と。ちょっと前に書き込んだ初期アセスメント。もちろんここでもマーガレットは食欲不振、倦怠感、不眠を訴えていて私は記入していた。しかし質問事項の多さか観察項目の多さか、用紙を埋めることに必死になってマーガレットが見えていなかったような気がした。食欲不振と倦怠感、、、で、この症状のOPQRSTUVの問診を始めた。フムフムと思いながらやっていた時、初期アセスメントの喫煙の項目に目がとまった。で急に考えが浮かんできた。もしかしてニコチンの退薬症状?さっきマーガレットはタバコはCOPDを診断された5年前に止めたっていっていたけど、、、、。とちょっとマーガレットを揺さぶってみた。すると”実は医師に止めろって言われたから止めたことにしてたけど、本当は量を減らしてただけで家で吸っていたの”とあっけなく事実を話す彼女。入院してからは?の問いに息苦しくて病室外を歩けないほどだったのよ。娘にタバコ持ってきてとか喫煙できるところまで連れて行ってなんて頼んだら、あの子怒ってもう訪れてくれなくなるから、入院中はしっかり禁煙していたのよと。ますます私の疑いが高くなる。
そして医師へ報告してニコチンパッチの処方を頼んだ。呼吸苦に対する積極的なオピオイドの投与とで数日後マーガレットはとても症状的に落ち着き、歩行距離も長くなった。食欲もばっちりで倦怠感も喪失、夜間に睡眠も十分取れるようになった。そして自宅退院を検討するほどに。
ESASがなかったら私はきっと見逃していた、と思った。新しいツールのおかげだ。感謝感謝。
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