カレンの母親がカレンがぜんぜん食べれないし、水分もとうとう取れなくなったから補液をしてほしい、と尋ねてきた。母親いわくこれがカレンの希望だと。カレンは私の受け持ちではなかったが受けもち看護師の経験が浅く、私に対応を頼んできた。
カレンは39歳、幼い子供を残しての旅たちになる。私はカレンと二人っきりで話をすることにした(もちろん受け持ち看護師は経験のため私たちの会話を観察していた)。
ベッドサイドに座って自己紹介をする。そして今の体調や気分から話を始めた。カレンは補液をしてもらえば呼吸苦や痛みが和らぐのではないかと理由を話す。水分を取るべきだと思うけど体が受け付けないし、飲もうって気になれないと。私は死が近づくにつれて体に起こる現象を話した。元気な時、のどが渇いて水を飲むといい気分になれたでしょ?あれは体に水分がいきわたってすっきりするのではなく、口の中が一瞬に潤されるから気分がよくなるのよ。体がほしがっていないのは、体がもう水分もいりませんとサインを送っている証拠。それよりも口腔ケアを頻回に行って口腔内を潤させることが大切ですよ、と口腔ケアを行った。カレンは気持ちが良い、と喜んだ。補液による成り行きも話した。
今までこうして話したことがないカレンに面と向かって話をするのはつらい。しかし正直に「死に向かって自分はどのあたりにいると思う?」と聞いた。彼女は「もう大分近いんじゃないかな」と言う。「小さいお子さんもいるし、遣り残したことをはありますか?」の問いに彼女は「なにもかもやれるだけのことはしたの。もう思い残すことはないわ。私もう死ぬ準備はできているの」と。その後カレンは補液はいらないわ、と言う。私もそう思った。補液が必要な理由がみつからなかったからだ。続けて私は「怖い?」と聞く。彼女は「怖いわ。私苦しむのかしら」と。私はもっと身体的変化の話をして呼吸苦や痛みはしっかりコントロールすることを約束する。カレンは安堵からかウトウトしだした。彼女が眠ってしまうその前にもうひとつ質問「自分の人生の最後の時間、どんな風にすごしたい?なにか希望はある?」と聞く。きょとんとする彼女。私は他の患者の例を挙げる。すると「ママにそばにいてほしいの」。「お母さんだけ?他には?」「それから夫と、でも子供はだめ、、、この二人だけ私が死ぬときそばにいて欲しい、、、」と。「今日話したことをしっかりカルテとカーデックスに書いて看護師や医療者全員があなたの望みがわかるようにしておくから」と話すとカレンはウトウトしだした。
そして今度はカレンの母親とカレンとの会話の話をした。彼女は目を潤ませながら「驚かないわ、彼女一生懸命がんと生きてきたから、、、もうがんばれなんて言えないわ。安らかに逝って欲しい、、、これで私もすっきりした。ありがとう」と。
受け持ち看護師はひたすら感心していた。素敵な会話だったと。Wowの連発だった。そんなに感心されても、、、しかし初対面でもこうして深い会話とサポートができる。私も経験をいっぱい積んできたのか、と改めて思った。簡単ではない。しかし想像できますか?はいはいと簡単に補液をはじめてもカレンの望みを満たすことができない。それどころか余分な水分を機械的に投与することで苦しめるかもしれない。カレンの死に対する恐怖。面と向かってしっかり説明することで軽減された。しなかったらどうなることでしょう?こういう重たい会話がきちんとできる。ホスピス看護師として大切な技術と技量だと思っている。
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