天からあっという間に墜落なんて経験があるものだ。今日はまさにそれでかなり凹んでいる。

FABPというものがある。病院のベッドの稼働率を上げるために作られたポリシーだ。病院は急性期の患者が行くところ。慢性期になったり急性期の治療が必要ない患者は病院を出なければならない。といっても追い出すわけにはいかない。きちんと行き先を見つけるのが病院側の仕事でもある。例えば高齢で在宅退院が不可能な場合は療養施設へ移動となる。しかしその療養先のベッドが必ずあるというわけでもない。地元の療養施設のベッドはなくても隣町の同等のベッドは空いている場合がある。そういう時患者を一時的に隣町の施設へ送るのだ。車で30分程度の領域がターゲットになる。そうすることで地域全体の稼働率を上げる(空床を減らす)ことだ。病院を不必要な患者によってベッドが占拠されることを防ぐことにもなる。しかし、本人にとっては地元を離れるつらさ、家族にとっては見舞いをする距離が長くなるというつらさもある。特に高齢者は運転をしない、できない人が多いのでバスなどの交通の便が悪い地域に住む人にとってはなおさらだ。だから断りたくなる気持ちもわかる。「地元のベッドが空くまで移りません!」と地団駄を踏むのも。その一方で病院のベッドに一晩泊まるということにどれぐらいのコストがついてくるかご存知ですか?一昔前は10万円ぐらいだったのが今は50万円近いという話です。もちろんカナダは医療費が無料なのでこんなことを考える人はいません。しかし、医療者側の意見=病院にいる必要のない患者 が居座ると「病院をホテル代わりに利用している」なんて取られてもしかたがない状況が生まれるのである。だから移動を拒否すると政府からの補助がなくなり全額自己負担というペナルティーがついてくるのである。脅しととられても仕方ない。しかしベッドがなく救急室にあふれる患者。病棟へ入院しても病室にも入れないで廊下で数日を過ごす患者の姿は日常的になっている。それほど病院のベッドは不足しているのだ。こういうポリシーを作ることでベッドの回転率を上げること、予算の節約にもなるのだ。で、このポリシーは療養施設だけでなくホスピスにも使用される。

ホスピス患者の利点はホスピス施設を最大限稼動することができ、病院で亡くなることを避けることができる。欠点はホスピス患者の余命の短さだ。その中でホスピスを転々とするのは、患者、家族にとってストレスが高まる。だからホスピスを勧めるときこのポリシーをどういう風に話すのか腕の見せ所になる。

すっかり前置きが長くなったが、今日このポリシーのことで家族にかなり強く非難された。とても患者思いで素敵な家族で先週までコツコツと関係を築きあげてきたのに、待ち望んでいたホスピスの空きが隣町のホスピスで料金所のある橋を渡らなければならず、そのホスピスの名前を出したとたん逆上されてしまった。もうそれ以来「聞く耳もたん」とばかりに罵声が続き、医師のバックアップも無残に追い出されてしまった。だー。

しかしこの家族のつらい気持ちもわかる。つい最近患者の夫が心筋梗塞で急に亡くなった。病気ひとつしたことのない、患者を支えてきた夫だ。患者本人、二人の子供(といっても成人だが)は悲嘆にくれている。そんな時にこんなニュースを持ち込まれたら腹も立つだろうに、と思う。結局私はマネージメントに特別許可の申請をしてポリシーの例外のケースとしてもらった。だから、ことはうまい方向に向かっている。しかし悔やまれる。もっと違うアプローチができたら不必要なストレスを患者と家族に与える必要はなかったかも、と。あー落ち込む。

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